経営戦略のゲーム理論―交渉・契約・入札の戦略分析

本書は日常生活や企業経営（労務人事、契約、入札、金融など）において散見される問題をゲーム理論の観点から論じている。経営戦略理論の本というよりも、ゲーム理論・意思決定・メカニズムデザイン・契約理論の本と言えそうである。ディキシット・ネイルバフによるゲーム理論の入門本のほうが評判が高いが、扱うテーマを経営に絞ることで議論をより簡潔にしている。また、最後の章において、言葉のみで記述する入門書が多い中、数学（２次関数）を用いて問題を記述していて、こういう入門本はあまりお目にかかれないように思う。本書のケーススタディの多くは現実に直面しそうに思われる経営諸課題で、それらの枝葉末節を取り除いてモデルを構築し、リスクやインセンティヴ、不確実性といった要素を取り混ぜながら必要最小限の記述、グラフや数学（主に２次関数）を用いて解明する。その意味では、本書も指摘することだが、ゲーム理論の威力は限定的で、その結論はある意味で「当たり前」な事ばかりかもしれない。しかしながら、「当たり前」だと思うことがゲーム理論の観点から考えるとある種の知的で新鮮な「感動」となって思考をめぐらすきっかけになるかもしれない。我々は「当たり前」だと思っていることほどあまり深く考えないので、本書は「当たり前」をゲーム理論で考えさせるガイドにもなっている。巻末の問題はすべて解答がついていて、ゲーム理論を学ぶ教材となっている。また、計算問題は２次関数で解けるように編集され、決して難解なものとなってはいない。一様分布の知識は要るかもしれないが、これも文中に解説が成されている。「人は他人のために働かない」のだから、「いかに他人のために働いてもらうか」。それが本書の大きな問題の一つで、一定の解答も用意されている。が、経営以外の実例にも触れている（国際貿易交渉など）ので、経営に特段関心のない人にも十分楽しめると思う。